野に咲く花のように




 風がほんの一瞬、微かな香りを運んできた。
 蓮華の蜂蜜のような、甘い香り。


 花屋の店先に並んで、白い小さな花が揺れていた。
 霞草やナズナのように小さな花。
 まるで大地に根付いているように、風に吹かれて並んでいる。
 アリッサムの花だった。


 決して飾らない花。
 だけど、色鮮やかな他のどの花達よりも目を惹いた。


 伸びやかに咲き誇って、店先にあるとは思えない野生。
 一生懸命に、ただ咲いているのが、嬉しくて仕方ないように、
 太陽の光に顔を向け、白い花たちが、空中の何かと交流をしていた。


 なんだかたまらなくなって、その場にしゃがみこみ、しばらく眺めていた。
 心の中で、”うちに来るかい”と、そっと訊いてみた。
 いくつかが応えた。そのうちの一つと目が合った。


 プラスチックの柔らかい黒容器ではかわいそうだったので、
 店員さんに小さな鉢植えはありますかと訊ねたら、持ってきてくれた。
 そのうえ、それをおまけしてくれた。ありがたい。いい人だ。


 そんなわけで、またひとつ家に植物が増えた。
 優しい、いい香りがする。
 もうすぐ仙人掌の花も咲きそうだ。









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