ヒマラヤの風




花講座帰りにいつも寄る雑貨屋で、ヒマラヤ水晶を見つける。


天然石やパワーストーンに精通し、石に愛された店のご主人は、その石の謂れを話してくれた。
徒歩でしか到達できないヒマラヤ高地に、何日もかけて工夫達が入り、手作業で採掘してきた30億年の地球の記憶。

地球最大の龍脈であるヒマラヤの、気の遠くなる時間の眠りをそのままに、切り出されたまさしくそれは地球の精髄。
そしてそれ故、この地で採れた水晶は、他の産地のものと区別されるのだとか。


鉱物に宿る命や意思を私は信じる。
聞く耳のあるものは、彼らの声を聞くだろう。

前日まで寝込んでいたので、昨日の体調はそれほどよくはなかった。

講座で余ったお花で、いつもお世話になっているその店に簡単なアレンジを作って帰るのが、最近の習慣になっていた。
まずまず作品の出来に満足し、その後、店の石たちを一つ一つ手にとって眺めていると、一つとても気になる石があった。


コブシ大の水晶の塊。
抜群に透き通っているわけでも、磨き上げられているわけでもない。

しかしそれは、他のきらびやかな石達を圧して、静かにそこにあった。


そっと手に持ってみた。
ずっしりと重たく、何か清冽な冷たさが、右手の石に宿っていた。

深海の海の底や、未踏の霊峰から感じる、何人も触れてはいけない世界への、畏怖のようなもの。
人間の小さな常識や世界には決して収まらない、でも歴然とそこにあるものすごく深い命の穴のようなもの。

次元の違う世界の、位相の違う同じ場所に立つような感じ。
垣間見る至大な生命の欠片。


しばらく持っていると、あの霊気を纏った山の空気のようなものが、体に流れ込んできた。

すーっごい気持ちいい。
高山や聖地に行ったときのような、日常感覚から浮き上がった、たゆたうようなエネルギー感、生命のお風呂にいるような高揚感と清清しさ。

手の石に意識を集中すると、山の景色が見えた。
宇宙につながるような透き通って近い空。山の風。

これがこの石のいた場所なんだろうか。
なんだかいろんなビジョンと、心地よさの中で、ふらふらと心行くまで遊んでいたら、体がぽかぽかしてとても元気になった。

気づくと一時間以上その石を握っていたらしい。
ご主人はよくあることだと言わんばかりに、暖かく眺めていてくれた。









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