松影に猫の座のあり烏城




花の仕事でしばらくの間、週に二日ほど長野の松本の方へ出向くことになった。

昨日は初日だったので割と早くあがり、せっかくなので市内を歩き回ってみた。

信州蕎麦を食べ、さしあたり他にあてもないので、まずは松本城を目指す。


真っ黒に塗られているので、その別名をカラス城。
思ったよりも小さい。

中も飾りっ気のないただの砦といった趣き。
急勾配のせまい階段を、お爺ちゃんお婆ちゃん達とすれちがう。
眺めはそこそこ。


しまった… せめて神社か骨董廻りにすべきだった。


受付で一緒にもらったチケットで、隣接の博物館に入る。

このスナイドル銃は、ラストサムライの撮影のときに撃ったなぁ
重かったよなぁ… とか
この笠は民兵役のときに被ったなぁ とか

我ながら変な感慨を抱いて博物館を後にする。


そんななか、城の石垣に咲き揺れる、ささやかな白い花。

変わらずに朽ち続ける、人の遺ししもの。
変わり受け継がれる、名もなき小さな生命の営み。


そしてその堀を囲む石垣の横。
松木立ちの根本、ぽっかりと開いた草の間に、その猫がいた。

白く薄汚れ、この上なくくつろいだ老猫。
あるいは城の主よりも主然として。


彼等ほど自由で幸福な存在を他に知らない。
本当に価値あるものは遺せないものの中にある。

国宝の下で、猫に教えられる本当の宝。
心地よく澄む秋の風が、柔らかにその毛を撫でていた。









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