海のお産


世界は本当に美しい。
それに触れようと手を伸ばすものには。
それを見ようと目を開けるものには。
私達はどれほど多くの奇跡を目を開けたまま見過ごしているのだろうか。
開いていたいと願う。
痛みがあったとしても、それを避けない強さを願う。


友人のりさちゃんの立ち会った体験文章が素晴らしかったのでご紹介します。




◯ 海のお産に立ち会ったおはなし ◯

屋久島に妊婦さんが訪ねて来た。
彼女は赤ちゃんを産む場所を探していた。
私がいる宿に数日間滞在して彼女は帰っていった。
そして臨月が近くなった頃、子どもたち2人を連れ再び屋久島に戻って来た。

***

彼女は助産師だった。
上の子2人とも自宅や助産院で水中出産をしていた。
そして今回は海で産みたいと言った。

彼女は「お産は一人でしたい」と言った。
旦那にも触れてほしくない。
ただ子どもたちが気がかりだ。
そして私は彼女がお産する時、子どもたちの面倒をみることになった。

***

彼女は屋久島に子どもを産みに来ていることを旦那さん以外誰にも話していなかった。
「そんなこと言ったら心配されてしまう。そのエナジーは私のお産には必要ないの。心配のエネルギーを飛ばされては困る」
ということだった。

だから私も、彼女の出産のことは考えないようにした。
だけどたまに、外から救急車の音が聴こえて来た時だけ、不安が押し寄せた。
私は彼女の邪魔をしてはいけない思ったから、その不安な気持ちにとどまらないようにがんばった。

***

彼女は毎日海に泳ぎに行った。いろんな海に入って、自分の体と赤ちゃんが馴染む海を探していた。
そしてみんなが寝静まった夜中には、ひとりバルコニーに座って、長いこと星を見上げていた。
「毎晩祈っていたの」と後で教えてくれた。

私は、毎日すごいなぁと思っていたのだけれど、自分も妊娠・出産を経験した今ならわかる気がする。
彼女はきっといつも、お腹の赤ちゃんや地球、宇宙とお話ししていたんだ。
妊娠中は感覚が研ぎ澄まされて、自分と赤ちゃん、世界との境界線が溶けていくから。

***

予定日まで後一週間ちょっとになった頃、彼女はお産の気配を感じた。
このままでは旦那さんが間に合わないと思い、予定より早く旦那さんをよんだ。
そして旦那さんが到着した次の日、陣痛はやって来た。

***

その日、彼女はいつものように夕飯を作っていた。
「少し張っている。」と言っていたけど、普段通りの様子だった。
夕飯を全て作り終えた後、彼女は言った。
「りさちゃん、海行くね!」
力強い声だった。

私たちはすぐに準備をして車2台で海へ向かった。
前を走る彼女たちの車はとっても急いでいた。

***

到着したとたんに彼女は車から出て来た。
そして一人でスタスタと海へと向かっていった。
一切の迷いのない、とってもたくましい姿だった。

彼女は海に入って産む場を探した。
旦那さんたちは、テントを張った。
子どもたちは、いつものように海に遊びにきたと思ったみたいで、「母ちゃんだけ海に入ってずるい」と言っていた。

***

その日の海はとても荒れていた。
前日が台風だったから、バシャバシャと大きな波が押し寄せていた。
彼女は岩につかまりながら体を支え、陣痛をこらえていた。

陣痛の波が大きくなり、彼女が声をあげ始めた。
子どもたちもようやくお産のことを把握した。
彼らはある一定の距離を保ちながら、お母さんの周りをウロウロ歩きながら遊んでいた。
二人でおどけながらも、しっかりと優しくお母さんの意識に寄り添っているのがわかった。
旦那さんはじっと砂浜から熱い視線で見守っていた。

***

私は気配を消し、その空間にくつろいだ。
そこは、「大丈夫」という言葉すら存在しない、ただただ安心だけの世界だった。

岩たちはどっしりと構え、彼女を抱擁した。
波は彼女のお腹を優しくマッサージし、陣痛を癒した。
空、雲、太陽、風・・・全ての存在が彼女たちに愛を注いでるようだった。

***

あんなに激しかった海の波が不思議と穏やかになった。
そして彼女が「うまれる〜!」と叫んだ。
次の瞬間、海の中から赤ちゃんが浮かび上がって来た。

赤ちゃんは少し海水を飲んでいて、すぐには泣かなかった。
時が止まったように世界が静まった、あらゆる存在が赤ちゃんを見守った。
彼女は冷静に赤ちゃんをさすり、海水を吐き出した。
そして産声をあげた。

再び波の音が聴こえ出した。

旦那さんが彼女を後ろから抱きかかえた。
その時彼女から、卵膜の破片や少しの血液が出て、海がほんのりピンクに染まった。
するとす〜っと優しい波がきて、彼女から出たものを綺麗に流していった。

それはそれは美しい光景だった。

*****

その後すぐに彼女から胎盤が生まれ、
テントの中で赤ちゃんにおっぱいをあげた。
そして日が暮れて月が光り始めた頃、みんなで宿に帰っていった。

∞      ∞      ∞      ∞      ∞

私は彼女たちがみせてくれた、
あの完全に調和された世界に今でももどることができる。
でも本当は、彼女たちのお産が特別だったわけではなく、
今この瞬間も全て完璧に調和されている。

世界は愛でできている。







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