最初からあったもの。
既に重なっていたがために、見えていなかったもの。
私達はどれほど多くの言葉や思考で世界を覆い尽くし、見落としているのだろう。
色を重ねた油絵から、真っ白なキャンバスを掘り返していくような作業をしている。
最初から絵具はいらなかったのだ。
ただ真っ白なキャンバスであれば、美しい光をそのまま写すことが出来たのだ。
アートは今ここにあるための必要性だ。
語りかける多量の思考から、自由であるために私達は創る。
本物の光だけを透せるような、そんな純粋な筒でありたい。
宇宙と大気圏との境界のような、世界との境の限りなく透明な窓でありたい。
朝の瞑想で受け取ったものをメモしておこうと立ち上がったら、ちょうど詩人の谷川俊太郎さんが亡くなられたという訃報が飛び込んできた。
彼の書く日本語は本当に美しかった。
もう続きが読めなくなるのは本当に寂しいけれど、残された言葉は今後何百年もの間、人々の心を洗い雪ぎ続けるだろう。
それはひょっとしたら、人の遺せる最大のことかもしれないと思う。
ただ自分に正直に紡がれた余分のない言葉達が、失われない耀きを留め得るとしたら、私達のすべきことはきっともっと単純になるに違いない。
ただ感謝によって首を垂れてしまうような、そんな力を持つ言葉を紡げる人だった。
本当にありがとうございました。
今朝は鎮魂と自分自身のために、彼の詩による「世界の約束」を弾いて過ごしている。
「今は一人でも明日は限りない
あなたが教えてくれた
夜にひそむやさしさ
思い出のうちにあなたはいない
せせらぎの歌にこの空の色に
花の香りにいつまでも生きて」
彼の言葉はこの世界への愛と、人間性への信頼に溢れていた。
あなたが深く愛したから、世界はあなたにもっと深く応えた。
きっとそれが、時が過ぎ時代が移り、いのちの形が変わっても、決して変わらない世界の約束。
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