夜のカケラ


猫に起こされ、夜中の三時半に目が覚めてしまった。
昨夜洗い忘れた食器を洗い終わってもまだ四時前。 

ほんのり雨の音がする。
満月から下弦に向かう月が、まだ窓から光を差している。
真夜中の天気雨は少し不思議だ。

窓を開けて、月明かりだけで小さくピアノを弾いてみた。
目を開けて観る優しい闇は、静かで、とても清んでいる。
間(あわい)が解けて、淡いが生まれている。

薄明前のこの境界の時間が好きだ。
本当に美しいものは、いつも誰にも知られずにただ横に在る。
自分がまだいない時、自我の境界が淡いときにだけ、その姿を見せてくれる。
私達がギフトに気が付けるのは、いつもその僅かな時間だけだ。

やってくる旋律に導かせて、ただその上に浮かんでいる。
月燈も雨音も蛙の声も、遠い海鳴りと一緒に溶けて一つになる。

東京のマンションにいたときでさえ、夜明け前は魔法の時間だった。
彼は誰時と人はいう。
彼は誰か、自分は誰かも薄く分からない時間、まだ分かたれていない時間。

この世界は本当は、ただあるだけで美しい。
それが隠された秘密。
隠されていない秘密。

ただ気づくだけ。
その一部に戻るだけ。
私達もまた今は、この夜の欠片。











0 件のコメント :

コメントを投稿