風の凪いだ日は、早朝の海に優る贅沢はない。
薄明の明け切らぬうちに、湊の堤の定位置へと急ぐ。
秋が深くなって気温も下がり、毎日赴くことは出来なくなっても、この静けさとスペースが触れさせてくれる無限に変わりはない。
海の消失点に意識が広がって届く頃、彼方から光芒が現れて、僅かに残された闇が見える粒子に置き換えられていく。
そうやって朝は、日毎に生まれ直す。
見落としているかもしれない奇跡に、日々包まれていたのを思い出すための儀式。
昇ってくる強く柔らかい光の最初の15分を、ただ自分のためだけに注ぐ。
呼吸が波の音に同調する頃、空っぽになったからだの温かさと重さを自覚する。
ようやく椅子に全ての体重をゆだねて、息が下がり地に足がつく。
自分が自分の真ん中につながり、世界につながった感覚を取り戻せば、儀式は終了。
目が覚めて、一日が始まる。
世界で一番贅沢な洗顔。
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